腎機能障害におけるDOACsの用量調整:副作用を避けるための実践的ガイド

クリアチニンクリアランス計算ツール

腎機能が悪化すると、DOACsの使い方が変わる

心房細動や静脈血栓症の治療で使われるDOACs(直接経口抗凝固薬)は、ワルファリンに代わる新しい血液の固まりを防ぐ薬です。でも、腎臓の機能が悪くなると、この薬の使い方が大きく変わります。なぜなら、DOACsのほとんどは腎臓から体の外に排出されるからです。腎機能が落ちると薬が体内にたまり、出血のリスクが跳ね上がります。逆に、薬の量が少なすぎれば、血栓ができたままになり、脳梗塞や心臓発作のリスクが高まります。

2023年現在、日本を含む先進国では、心房細動の患者の8割以上がDOACsを使っています。でも、その半数近くが腎機能が低下している状態です。年齢を重ねるほど、腎機能は自然に落ちます。75歳以上の患者では、4割以上が腎機能障害を伴っています。この状況で、正しい用量を守らないと、命に関わる出血や血栓が起きる可能性があります。

DOACsは4種類。それぞれの腎臓への影響が違う

現在使われているDOACsは4種類あります:アピキサバン(エリクシス)、リバロキサバン(ザイカロ)、ダビガトラン(プリヌア)、エドキサバン(サックスア)。これらは、どれも同じように見えるかもしれませんが、腎臓に与える影響はまったく違います。

アピキサバンは、腎機能が極端に悪い人でも比較的安心して使える薬です。腎臓から排出される割合は25%程度で、他の薬よりずっと少ない。だから、腎機能がかなり悪くても、通常の用量(5mgを1日2回)を使い続けることができます。特に透析患者では、ワルファリンよりも出血リスクが低いというデータもあります。

一方、リバロキサバンは腎臓から70%以上が排出されます。腎機能が非常に悪い(クレアチニンクリアランスが15mL/分未満)と、使用が禁忌です。透析患者には原則として使わない方が安全です。

ダビガトランとエドキサバンも、腎臓に頼る割合が高いです。腎機能が低下すると、用量を減らす必要があります。ダビガトランは、クレアチニンクリアランスが15~30mL/分の場合は75mgを1日2回に減らします。エドキサバンは30mgに減らします。どちらも15mL/分以下では使用禁止です。

用量調整は「クレアチニンクリアランス」で決める

ここで重要なのは、腎機能を測る方法です。病院でよく見かける「eGFR」は、用量調整には使えません。必ずクレアチニンクリアランス(CrCl)を使わなければなりません。

クレアチニンクリアランスは、年齢、性別、体重、血清クレアチニン値を使って計算します。公式はこうです:

男性:CrCl = (140 - 年齢) × 体重(kg) / (72 × 血清クレアチニン mg/dL)

女性:CrCl = 上記の値 × 0.85

例えば、80歳、体重55kg、クレアチニン値1.4mg/dLの女性なら:

(140 - 80) × 55 / (72 × 1.4) = 60 × 55 / 100.8 ≈ 32.7mL/分

この値を基に、どのDOACsのどの用量にするかを判断します。でも、この計算、高齢者ややせている人では、体重が低すぎると誤差が出やすい。筋肉量が減っている高齢者では、クレアチニン値が低めに出ることがあるので、実際の体重より低い値で計算して、安全側に倒すのがコツです。

高齢で痩せた患者がアピキサバンを服用し、ABCルールの3条件のうち2つが適用されている様子。

アピキサバンの「ABCルール」を覚える

アピキサバンの用量を減らす基準は、3つの条件のうち2つ以上に当てはまれば、5mg→2.5mgに減らす必要があります。これを「ABCルール」と呼ぶ医療現場が増えています。

  • A:年齢が80歳以上
  • B:体重が60kg以下
  • C:血清クレアチニンが1.3mg/dL(115μmol/L)以上

このルールは、腎機能だけを見ないで、年齢と体重も考慮するという点で、とても実用的です。クレアチニン値が正常でも、高齢で体重が軽い人なら、薬がたまりやすいからです。このルールは、日本でも多くの病院で研修で教えられています。

透析患者には、アピキサバンが唯一の選択肢

透析を受けている患者は、腎機能がほぼゼロです。ワルファリンは、透析患者では出血リスクが高く、血管の石灰化も進みやすいとされています。一方、アピキサバンは、透析中でも安全に使える唯一のDOACです。

ある病院のデータでは、127人の透析患者にアピキサバン2.5mgを1日2回投与したところ、1年間の重大な出血発生率は1.8%。対照群のワルファリン群では3.7%でした。これは、透析患者にとって大きな違いです。

ただし、注意点があります。透析患者でも、体重が40kg以下で、80歳以上なら、さらに慎重になる必要があります。医師の判断で、1日1回の投与に減らすケースもあります。透析の日と非透析日の薬の濃度の変動を考慮する必要があるからです。

薬剤師が誤った用量と安全な用量を比較し、透析患者の処方をチェックしている様子。

処方ミスは意外に多い。薬剤師がチェックする

2022年の研究では、腎機能障害のある患者にDOACsを処方した場合、37%以上で用量が間違っていたというデータがあります。なぜでしょう?

まず、医師がクレアチニンクリアランスを計算しないで、eGFRで判断してしまう。次に、アピキサバンのABCルールを忘れてしまう。そして、リバロキサバンを腎機能が悪い人に処方してしまう。

薬剤師が処方チェックをしっかりすれば、8割以上のミスは防げます。特に、高齢者ややせ型の患者では、薬剤師が「この患者、体重50kgだけど、クレアチニンは1.2。ABCルールで2つ当てはまるから、アピキサバンは2.5mgにすべき」と声を上げる必要があります。

最近では、病院やクリニックで「抗凝固管理外来」が増えてきました。オンラインで腎機能の変化をモニタリングし、薬の調整を自動で提案するシステムも導入されています。これにより、副作用の発生率が22%以上減ったという報告もあります。

今後の展望:2026年までにルールが明確に

現在、腎機能が極端に悪い患者へのDOACs使用については、まだ完全なエビデンスが足りません。特に透析患者では、どの薬が最良か、どの用量がベストか、まだはっきりしていません。

しかし、2024~2025年にかけて、複数の臨床試験の結果が出る予定です。特に、アピキサバンとワルファリンを比較する「AXIOS試験」や、「RENAL-AF試験」の結果は、今後のガイドラインを大きく変える可能性があります。

アメリカ心臓協会の予測では、2026年までには、すべての腎機能障害の段階(CKD1~5期)に対して、DOACsの明確な用量ガイドラインが確立されると見られています。それまでは、腎機能が悪くても、アピキサバンを慎重に使い続けるのが、現時点での最善の選択です。

まとめ:安全に使うための5つのルール

  1. クレアチニンクリアランス(CrCl)を計算する。eGFRは使わない。
  2. アピキサバンは、年齢80歳以上、体重60kg以下、クレアチニン1.3mg/dL以上のいずれか2つ以上に該当すれば、5mg→2.5mgに減らす。
  3. リバロキサバンは、CrClが15mL/分未満なら絶対に使わない。
  4. 透析患者には、アピキサバン2.5mgを1日2回が基本。体重が極端に低い場合は、1日1回に減らすことも検討。
  5. 薬の変更は、腎機能が変わったとき(病気、脱水、入院など)必ず見直す。年1回のチェックでは不十分。

腎機能が悪くなっても、血栓を防ぐことは可能です。でも、薬の使い方を間違えれば、命に関わるリスクが高まります。正しい計算と、患者一人ひとりに合わせた調整が、安全な治療の鍵です。

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