眼の画像診断:OCT、眼底写真、造影検査の違いと使い分け

眼の内部を見えるようにする技術

目が見えにくい、かすむ、黒い点が浮かぶ――そんな症状で眼科を受診したとき、医師がまず行うのは、眼の内部を詳細に見るための画像診断です。OCT、眼底写真、造影検査(フルオレセイン造影)は、現代の眼科診断の三大支柱です。これらはそれぞれ違う情報を教えてくれるので、一緒に使われることがほとんどです。どれか一つだけで診断することは、ほとんどありません。

OCT:網膜の断面を高解像度で見る

OCT(光干渉断層計)は、レーザー光を使って網膜の層を、まるで超音波で内臓を見るように断面で映し出す技術です。2000年代後半から普及したスペクトルドメインOCT(SD-OCT)は、現在の標準です。軸方向の解像度は5~7マイクロメートル。これは、人間の髪の毛の1/10ほどの厚さを区別できる精度です。

この技術の強みは、非侵襲で、瞳孔の大きさや目の透明度にあまり左右されない点です。糖尿病網膜症で網膜に水がたまっているか、加齢黄斑変性で網膜の下に液体がたまっているか、黄斑円孔ができているか――これらはすべてOCTで明確に見えます。網膜の層がどれだけ厚くなっているか、薄くなっているか、数値で測定できるので、治療の効果を追跡するのにも最適です。

近年では、より深い層まで見えるスイープドソースOCT(SS-OCT)も登場しました。従来のOCTが1秒あたり2万~8万回の測定を行うのに対し、SS-OCTは10万~40万回。これにより、網膜の下にある脈絡膜(血管が豊富な層)の構造も、はっきりと見えるようになっています。

眼底写真:網膜全体の「写真」を撮る

眼底写真は、名前の通り、眼の奥の網膜や視神経頭、黄斑をカメラで撮影する方法です。Zeiss FF 450+などの専用カメラを使い、瞳孔を広げて撮影します。この写真は、網膜全体の状態を一目で把握するのに欠かせません。

糖尿病網膜症の微小動脈瘤、出血、脂質沈着、新生血管の存在――これらは眼底写真で初めて発見されることも多くあります。視神経の変化(緑内障の進行度)や、網膜の変性、炎症性疾患の範囲も、この写真で確認できます。OCTが細かい層の構造を見るのに対し、眼底写真は「全体の地図」を提供する役割です。

ただし、写真では「血流」が見えません。水がたまっているかどうかはわかりますが、その水がどこから漏れているのか、血管が詰まっているのか、はっきりとはわかりません。そこで必要になるのが、次の技術です。

眼底写真で糖尿病性網膜症の出血や脂質沈着が赤や黄色で強調され、新生血管が描かれている。

フルオレセイン造影:血流をリアルタイムで追跡

フルオレセイン造影(FA)は、腕から薬(フルオレセイン)を注射して、その薬が網膜の血管を流れる様子をカメラで撮影する方法です。注射後、10~30分かけて、血管の漏れ、詰まり、異常な新生血管の形成を動的に観察します。

この方法の最大の強みは、血管の「漏れ」を最も敏感に捉えられることです。糖尿病黄斑浮腫(DME)では、OCTでは見えにくい微細な漏れも、FAでははっきりと映ります。研究では、DMEの診断においてFAの感度は1.00(100%)、SD-OCTは0.79(79%)と、FAの方が優れているとされています。

しかし、欠点もあります。注射による副作用のリスクがあります。吐き気、めまい、アレルギー反応(まれに重篤な場合も)、皮膚が黄色くなるなどの一時的な変化が起こります。また、検査時間が長く、患者のストレスも大きいです。

OCTA:注射なしで血管を3Dで見る

2014~2015年頃から登場したOCTA(OCT血管造影)は、これまでの造影検査の「革命」です。この技術は、OCTの原理を応用して、薬を注射せずとも、網膜や脈絡膜の血管の流れを3次元で可視化できます。

OCTAは、血流の動きを検出して、静止した組織と動いている血液を区別します。そのため、血管が詰まっている場所(非灌流領域)、新生血管の形、毛細血管の密度まで、詳細に描き出せます。検査時間は数秒で済み、注射のリスクがなく、患者の負担が圧倒的に小さいです。

特に、糖尿病網膜症で「新生血管が視神経頭にできているか」や、網膜静脈閉塞症で「毛細血管がどれだけ失われているか」を評価するのに、OCTAは非常に有効です。2023年の研究では、OCTAで発見された非灌流領域が、従来のFAでは見逃されていたケースが複数報告されています。

ただし、OCTAにも弱点があります。動いてしまうと画像がぶれやすく、子供や認知症の患者、目をしっかり見つめられない人には向いていません。また、血管の「漏れ」は見えません。FAでしか確認できない、微細な液体の漏出パターンは、OCTAでは捉えられません。

疾患ごとの画像診断の使い分け

  • 糖尿病網膜症:眼底写真で全体の状態を把握。OCTで黄斑浮腫の有無と程度を確認。FAまたはOCTAで新生血管や非灌流領域を評価。OCTAは注射不要で便利ですが、漏れの確認にはFAが不可欠です。
  • 加齢黄斑変性:OCTが中心。網膜の下の液体や、脈絡膜新生血管の有無を確認。OCTAで新生血管の形状や密度を詳しく見る。FAは、OCTで不確かな場合の補助として使われます。
  • Coats病:眼底写真で白い脂質沈着と血管の異常を確認。OCTでは、網膜の複数層にわたる滲出物や、小さな液だまりが見えることがあり、写真では見逃される部分を補います。
  • 点状内脈絡膜炎(PIC):複数の画像を組み合わせます。OCTで網膜の変化、FAとICG(インドシアニングリーン)で脈絡膜の異常、OCTAで小さな非灌流領域を検出。OCTAは、PICの診断で非常に重要な役割を果たしています。
フルオレセイン造影で血管から染料が漏れ、OCTAとの比較が示された医療イラスト。

なぜ複数の検査が必要なのか?

眼の病気は、一つの画像だけでは見抜けません。OCTは構造を、眼底写真は広がりを、FAは漏れを、OCTAは血流の細かい変化を教えてくれます。これらは「それぞれ違う言葉」で、同じ病気について語っているのです。

たとえば、糖尿病で「黄斑浮腫」と診断されたとしても、その原因が「血管の漏れ」なのか「網膜の変性」なのかで、治療法が変わります。OCTだけでは「水がたまっている」ことはわかりますが、それが「血管から漏れている」のか「網膜の細胞がうまく水分を保てなくなった」のか、判断できません。FAやOCTAがあれば、原因を特定できます。

医師が複数の画像を並べて見るのは、まるで複数の証人から証言を聞くようなものです。一つの証言だけでは真実が見えない。すべての情報が揃って、初めて正しい診断が可能になるのです。

今後の進化:AIと広範囲撮影

OCTやOCTAの画像は、膨大な量のデータを生成します。それを人間の目で一つ一つ見るのは、時間がかかり、ミスも起こりえます。そこで、人工知能(AI)による自動解析が注目されています。すでに一部の機器では、OCT画像から黄斑円孔や網膜剥離を自動で検出する機能が搭載されています。

また、広範囲OCTA(wide-field OCTA)という技術も進化しています。従来のOCTは網膜の中心部しか見られませんでしたが、新しい機種では、網膜の周辺部まで広く撮影できます。これにより、周辺部の小さな血管閉塞や、初期の新生血管を発見できるようになり、病気の進行を早期に防ぐ可能性が高まりました。

患者として知っておきたいこと

検査を受けるとき、どんな違いがあるのか知っておくと、不安が減ります。

  • OCT:顔を装置に当てて、光を当てられるだけ。痛くない。5分以内で終了。
  • 眼底写真:瞳孔を広げる点眼薬をさす。光がまぶしく、数分間見えにくくなる。10分ほどで終了。
  • フルオレセイン造影:腕に針を刺して薬を注射。20~30分間、写真を撮りながら待つ。尿や肌が数時間黄色くなる。アレルギーのリスクがある。
  • OCTA:OCTと同じように、光を当てるだけ。注射なし。数秒で終了。ただし、目をしっかり見つめないといけない。

検査の選択は、あなたの病気の種類や状態、年齢、体調によって異なります。医師が「今回はFAが必要です」と言う理由は、必ずあります。不安なら、「なぜこの検査が必要なのか?」と聞いてください。あなたの目を守るために、それぞれの検査が、それぞれの役割を果たしているのです。

OCTとOCTAの違いは何ですか?

OCTは網膜の層構造を断面で見る技術で、厚さや液体のたまり方を測定します。OCTAは、そのOCTの原理を使って、血管の流れを映し出す技術です。OCTは「構造」、OCTAは「血流」を可視化します。OCTAは注射が不要で、血管の詰まりや新生血管の形を3Dで見られます。

造影検査(FA)はなぜ注射が必要なのですか?

フルオレセインという薬は、血管の中を流れるときに光を発する性質があります。この薬が血管を通る様子をカメラで撮影することで、血管が漏れている場所や、詰まっている場所、異常な血管の存在をはっきりと見ることができます。注射がなければ、血流の動きは見えません。

OCTAはFAの代わりになりますか?

一部の病気では代替できますが、すべてではありません。OCTAは血管の形や血流の欠損をよく見ますが、血管からの「漏れ」は見られません。糖尿病黄斑浮腫や網膜静脈閉塞症では、漏れの確認にFAがまだ不可欠です。両方の長所を活かして使うのが、最善の方法です。

眼底写真は今でも必要ですか?

はい、必要です。OCTやOCTAは中心部の細かい構造を見ますが、眼底写真は網膜全体の「地図」を提供します。出血の広がり、脂質沈着の範囲、新生血管の位置――これらは写真で初めてわかることが多いです。診断の第一歩として、必ず撮影されます。

検査は痛いですか?

OCT、OCTA、眼底写真はすべて痛くありません。眼底写真では瞳孔を広げる点眼薬をさしますが、しみる程度です。フルオレセイン造影だけが、腕に針を刺す注射が必要で、少し痛みがあります。しかし、ほとんどの人は耐えられる程度の痛みです。

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