慢性腎臓病(CKD)の患者さんでよく見られる浮腫。足がむくんで靴がきつくなる、朝顔が腫れて目が開けにくい、お腹が張る……。これらは単なる不快感ではなく、体の中に余分な水分と塩分が溜まっているサインです。腎臓がうまく働かないと、排出すべきナトリウムと水分が体内に蓄積し、血管から組織へ液体が漏れ出てしまいます。特に足首やふくらはぎ、まぶた、お腹(腹水)に現れやすいです。この浮腫を放っておくと、心臓に負担がかかり、呼吸困難や高血圧、さらには透析が必要になるリスクが高まります。
浮腫の根本原因:腎臓の機能低下とナトリウムの蓄積
健康な腎臓は、毎日約180リットルの血液をろ過し、必要なものを再吸収して、余分な水分と塩分を尿として排出します。しかし、CKDが進むと、ろ過能力(eGFR)が低下し、ナトリウムの排出がうまくできなくなります。ナトリウムは水分を引き寄せる性質があるので、体内のナトリウムが増えれば、その分の水分も溜まります。結果、血液の量が増え、血管内の圧力が上昇。その圧力で血管の壁から水分が漏れ、皮膚の下や組織にたまって浮腫になります。
この状態は、eGFRが60 mL/min/1.73m²以下(CKDステージ3以上)になると顕著に現れます。ステージ4や5では、ほぼすべての患者さんに何らかの浮腫が見られます。ここで重要なのは、浮腫が「水分過剰」の結果であるということ。だから、治療の基本は「余分なナトリウムと水分を減らすこと」です。
第一の戦略:塩分制限--薬に頼らずにできる最強のケア
利尿薬を飲む前に、まずやるべきことは「塩分を減らすこと」です。多くの患者さんが勘違いしていますが、浮腫の改善に最も効果的なのは薬ではなく、食事の見直しです。
米国腎臓財団と米国腎臓病対策品質イニシアチブ(KDOQI)は、CKDの浮腫がある人は、1日あたりのナトリウム摂取量を2,000mg以下に抑えるよう推奨しています。これは、塩(氯化ナトリウム)で言えば約5g。つまり、小さじ1杯分です。
しかし、問題は「塩」だけではありません。加工食品がナトリウムの最大の原因です。パン2枚で300~400mg、缶詰のスープ1杯で800~1,200mg、ハムやソーセージ2オンス(約56g)で500~700mgも含まれています。つまり、味噌汁や漬物だけでなく、パン、パスタ、レトルト食品、コンビニ弁当、ドレッシング、ソース、スナック菓子までが「隠れた塩分源」です。
塩分を2,000mg以下に抑えるだけで、早期のCKD(ステージ1~3)では、利尿薬を使わなくても2~4週間で浮腫が30~40%軽減するというデータがあります。ただし、これには専門家のサポートが不可欠です。腎臓栄養士と3~4回の指導を受けることで、ラベルの見方、調理法の変更、代替食材の選び方を学び、実践できるようになります。
さらに、水分の取りすぎにも注意が必要です。浮腫がひどい人は、1日あたりの総水分摂取量を1,500~2,000mLに制限する必要があります。ジュースやコーヒーだけでなく、ヨーグルト1杯(200mL)、スープ1杯(240mL)、スイカ(92%が水分)などもカウントします。水分は「飲むもの」だけではなく、「食べるもの」にも含まれているのです。
第二の戦略:利尿薬--腎機能に応じて選ぶ、適切な薬
塩分制限だけでは浮腫が改善しない場合、利尿薬が登場します。しかし、ここで大きな誤解があります。「利尿薬はどんな薬でも効く」と思われがちですが、実は腎機能(eGFR)に応じて、使う薬が大きく変わります。
eGFRが30 mL/min/1.73m²以上の場合は、チアジド系利尿薬(ヒドロクロロチアジド、クロロタリドン)が有効です。通常、1日12.5~25mgで始めます。一方、eGFRが30を下回るような進行したCKDでは、ループ利尿薬(フロセミド、ブメタニド、トルセミド)が第一選択です。フロセミドなら、最初は1日40~80mgから始め、効果が不十分なら2~3日ごとに20~40mgずつ増やしていきます。重度の場合は1日160~320mgまで使うこともあります。
さらに、ループ利尿薬とチアジド利尿薬を組み合わせる「ニーロン連鎖遮断法」は、抵抗性の浮腫に有効です。しかし、この組み合わせは急性腎障害のリスクを23%高めることが研究で示されています。そのため、医師は慎重に用量を調整し、尿量や体重、血圧、電解質(特にカリウム)を毎日モニタリングします。
2025年3月、FDAはフロセミドの静脈注射剤をCKDの浮腫専用として承認しました。これは大きな進歩です。eGFRが15以下のような高度なCKDでは、経口薬では吸収が不安定で効果が不十分なことが多いですが、静脈注射なら38%も水分排出量が増えるというデータがあります。
一方で、利尿薬には大きなリスクがあります。研究によると、利尿薬を使っているCKD患者は、使っていない人よりも1年あたりのeGFR低下が3.2mL/min/1.73m²と、1.7mL/min/1.73m²の2倍以上。さらに、12ヶ月以内に透析が必要になるリスクが47%も高まります。これは「薬で水分を出しすぎると、腎臓にさらに負担がかかる」からです。医師は「浮腫をなくす」だけでなく、「腎臓を守る」バランスを常に考えています。
第三の戦略:圧迫療法--体の外から浮腫を押し出す
足のむくみは、重力の影響で特に下肢にたまりやすいです。だから、薬や食事だけでなく、「重力と向き合う」工夫も必要です。
まず、足を心臓より高く上げること。寝るときや座っているときは、足を枕やクッションで高くして、15~30分以上上げるだけでも、浮腫は25~30%軽減します。これは、血液が心臓に戻りやすくなり、血管の圧力が下がるからです。
次に、圧迫ストッキングです。足首で30~40mmHgの圧力がある「段階的圧迫ストッキング」が推奨されています。4週間使い続けると、脚の体積が15~20%減るというデータがあります。ただし、履きにくい、かゆくなる、皮膚が荒れるという理由で、3か月後に継続しているのはわずか38%です。だから、最初は短時間から始め、慣れてから長時間履くようにしましょう。
さらに、歩行が効果的です。1日30分、週5回の散歩は、浮腫の改善を22%も高めます。筋肉の収縮がリンパや静脈の流れを助け、水分を体の外に押し出すからです。運動ができない人には、足首を回す、つま先を上下に動かす、座ったままの簡単なストレッチも有効です。
重度の浮腫(特にネフローゼ症候群)では、間欠的空気圧療法(IPD)という機械が使われます。足に空気の袋を巻いて、40~50mmHgの圧力を周期的にかけることで、ストッキングよりも35%も効果的に浮腫を減らすことができます。
実際の患者の声と成功のカギ
多くの患者が言うのは、「塩分制限が一番つらい」です。72%が味が薄くて食べられない、65%が外食や家族との食事で我慢できない、58%が市販の低塩食品が限られていると感じています。
利尿薬の副作用も大きな課題です。78%が夜中にトイレに起きるため睡眠不足、42%が足のこむら返り、35%が立ちくらみを経験しています。22%はめまいや低血圧で救急搬送された経験があります。
でも、成功例もあります。メイヨー・クリニックの患者登録データによると、腎臓専門医、腎臓栄養士、理学療法士の3者でチームを組んで管理した患者の75%が、8週間以内に浮腫をコントロールできました。一方、通常のケアだけでは45%しか改善しません。
つまり、浮腫の改善は「薬一つ」ではなく、「食事+薬+運動+生活習慣」の総合力で成り立ちます。
今後の展望:より精密な管理へ
現在、米国国立衛生研究所(NIH)が実施している「FOCUS試験」では、生体インピーダンス分光法(BIS)という機器を使って、体内の水分量を正確に測定し、それに応じて利尿薬の量を調整する方法を検証しています。初期データでは、この方法で入院率が32%減ったという結果が出ています。
また、今後は「よりゆっくり、安全に」水分を減らす方向にシフトしつつあります。急激に水分を抜くと、腎臓が傷つくリスクが高まるため、1日に体重が0.5~1.0kg減れば十分です。過剰な利尿は、むしろ長期的な腎機能の悪化を招く可能性があります。
浮腫は「症状」にすぎません。本当の問題は「腎臓が疲れている」こと。だから、むくみを消すのではなく、腎臓を守る生活を続けることが、最も大切な治療なのです。
CKDの浮腫は、塩分を減らすだけで治りますか?
早期のCKD(ステージ1~3)では、1日2,000mg以下の塩分制限だけで、2~4週間で30~40%の浮腫が軽減することがあります。しかし、ステージ4や5では、腎臓の機能が極端に低下しているため、塩分制限だけでは十分な効果が得られません。この段階では、利尿薬や圧迫療法と組み合わせることが必須です。
利尿薬を長く飲むと腎臓が悪くなるのですか?
はい、リスクがあります。研究では、利尿薬使用者のeGFRは1年で平均3.2mL/min/1.73m²低下し、非使用者の1.7を上回ります。また、12ヶ月以内に透析が必要になるリスクが47%高まります。これは、利尿薬で水分を急激に抜くと、腎臓への血流が減り、機能がさらに落ちるためです。だから、医師は「必要最小限」の量と「ゆっくり」した減量を心がけます。
圧迫ストッキングは、本当に効果がありますか?
はい、科学的に証明されています。足首で30~40mmHgの圧力を持つ段階的圧迫ストッキングを4週間着用すると、脚の体積が15~20%減少することが水位測定法で確認されています。ただし、履きにくい、かゆい、皮膚が荒れるなどの理由で、3か月後に継続しているのは38%に過ぎません。だから、最初は1日2時間から始め、徐々に長くしていきましょう。
水分を制限しすぎると脱水になりますか?
はい、リスクがあります。特に利尿薬を使っている人は、水分を減らしすぎて低血圧やめまい、腎機能の急激な悪化を起こす可能性があります。目安は、1日あたりの総水分摂取量を1,500~2,000mLに抑えることです。これは、飲み物だけでなく、スープ、ヨーグルト、果物など「食べる水分」も含みます。体重の急激な減少(1日1kg以上)や尿量が極端に減った場合は、医師に相談してください。
スパイロノラクトンは浮腫に効きますか?
はい、ただし条件があります。心不全(NYHAクラスIII~IV)を伴うCKDや、肝硬変による腹水がある場合に有効です。25~50mgを1日1回服用します。しかし、CKDステージ4~5では高カリウム血症のリスクが25%以上になるため、血中カリウム値を毎週チェックする必要があります。自己判断での使用は厳禁です。
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