胃酸逆流症(GERD)とは何か
GERDは、胃の酸が食道に逆流する慢性的な病気です。週に2回以上繰り返され、食道に炎症や損傷を引き起こす場合、GERDと診断されます。アメリカの消化器病学会によると、米国では約20%の人がこの症状を抱えています。日本でも、肥満や食生活の変化により、患者数は年々増加しています。
GERDの主な症状は、胸の灼け付き(胸やけ)、喉の違和感、酸っぱいものが口に上がってくることです。夜中に目が覚めて咳き込む、朝起きたときに喉が痛い、という経験があるなら、それはGERDのサインかもしれません。
生活習慣の見直し:第一の治療ステップ
GERDの治療は、まず薬ではなく、生活習慣の改善から始めます。これは、アメリカの家庭医学会と消化器病学会が共通して推奨する「ステージI」の治療です。薬に頼らずに症状を軽くできる可能性が高い方法です。
- ベッドの頭を6インチ(約15cm)高くする:夜間の逆流を防ぐため、枕を2つ重ねるのではなく、ベッドの足元に台を置くのが効果的です。横向きに寝るより、背中を高くした状態で寝るのが重要です。
- 食後3時間は横にならない:食事を終えて1時間以内に寝ると、逆流の頻度が50%も増えます。夕食は就寝の3時間前までに済ませましょう。
- 脂肪摂取を30%以下に抑える:脂っこい料理(フライ、チーズ、バター、揚げ物)は胃の排空を40~60分遅らせ、胃圧を上げて逆流を促します。1食の脂肪量を30g以下に抑えるだけで、症状が40%改善する研究もあります。
- 喫煙と飲酒を減らす:タバコは食道の下部の筋肉(下部食道括約筋)の圧力を20~40%下げ、アルコールは25%下げます。1日2杯以下に抑えるだけでも効果があります。
- 体重を10%減らす:BMIが25以上の人は、体重を10%減らすだけで、GERDの症状が40%改善するというデータがあります。特に腹部脂肪が多い人は、胃を圧迫して逆流を起こしやすくなります。
避けた方がいい食べ物と飲み物
すべての人が同じものを避ける必要はありませんが、多くの人に共通する「トリガー食品」があります。これらの食品を14日間記録して、自分が反応するものを特定するのがベストです。
- カフェイン:コーヒー、紅茶、エナジードリンクは胃酸を30分で23%増加させます。朝のコーヒーを緑茶やハーブティーに変えるだけでも効果が出ます。
- ミント:ミントの香りやガム、お茶は下部食道括約筋を15~20%緩めます。特に夜に食べると症状が悪化します。
- チョコレート:メチルキサンチンという成分が筋肉を緩め、逆流を促します。ダークチョコレートでも同様です。
- トマト製品:トマトソース、ピザ、ケチャップはpHが4.0~4.6と酸性が強く、食道の粘膜を直接刺激します。
- 柑橘類:オレンジ、レモン、グレープフルーツはpHが2.0~4.0と非常に酸性。ジュースより果肉の方がまだましですが、避けるのが無難です。
- 炭酸飲料:炭酸ガスが胃を膨らませ、腹圧を15~20mmHg上げます。コーラやスパークリングウォーターもNGです。
- 辛い食べ物:唐辛子やカレーは胃酸の分泌を増やし、食道の感覚を過敏にします。辛さが直接逆流を起こすわけではありませんが、痛みを強く感じさせます。
食事日記をつけると、自分がどの食品に反応するかがはっきりします。バムルングラッド病院の2025年のガイドラインでは、65%の患者がこの方法で2~3つの明確なトリガーを特定できたと報告しています。
薬物療法:段階的に進める
生活習慣の改善だけでは症状が改善しない場合、薬を使います。治療は段階的に進めます。
ステージII:抗酸剤とH2ブロッカー
抗酸剤(タムズ、マグネシアなど)は、即効性がありますが、効果は30~60分しか続きません。一時しのぎに使います。
H2ブロッカー(ファモチジン、ペプシッド)は、胃酸の分泌を60~70%減らします。1日2回、食事の前に服用します。効果は10~12時間持続します。軽い症状や、夜間の胸やけに有効です。
ステージIIIとIV:プロトンポンプ阻害薬(PPI)
中等度~重度のGERDには、PPIが第一選択です。エソメプラゾール(ネキシウム)、ランソプラゾール(プレバシッド)、オメプラゾール(プリロセック)などが使われます。
PPIは胃酸の分泌を90~98%抑え、食道の炎症を80~90%の患者で8週間以内に治します。ただし、効果が出るまでには2~5日かかります。毎日決まった時間に服用しないと効果が半減します。服用は朝食の30~60分前がベストです。朝食前に飲むと、胃の酸を出す細胞が活動し始めるタイミングに合わせて薬が作用します。
しかし、1年以上使い続けるとリスクもあります。FDAは2022年、長期使用で肺炎、クロストリジウム・ディフィシレ感染、慢性腎臓病のリスクが上昇すると警告しています。また、ビタミンB12やマグネシウムの吸収が悪くなることもあります。定期的な血液検査が必要な場合もあります。
ステージIV:新しい薬・P-CAB
2023年12月、FDAはボナプラザン(ヴォケズナ)を承認しました。これはPPIとは違う仕組みで胃酸を抑える新しい薬です。
P-CABはPPIより速く、より長く酸を抑えます。70%のPPI使用者は夜間に酸が再び上がる「ノクターン・アシッド・ブレイクスルー」を経験しますが、ボナプラザンでは95%の患者が24時間pH4以上を維持できます。2024年には長期使用の承認も得て、日本でも徐々に導入が進んでいます。
手術:薬が効かない場合の最終手段
薬で症状が改善しない、薬をずっと飲みたくない、または食道に狭窄やバレット食道という合併症がある場合は、手術を検討します。
ラパロスコピック・ニッセン胃袋形成術
最も一般的な手術です。胃の上部を食道の周りに巻きつけて、逆流を防ぐ「弁」を作ります。5年後に90~95%の人が症状がなくなります。ただし、5~10%の人が食べ物を飲み込みにくくなる(嚥下困難)、15~20%の人が空気をためてお腹が張る(ガス・ブロート症候群)という副作用が出ます。
LINX装置
磁石でできた小さなビーズの輪を、食道と胃の境目に埋め込む方法です。胃酸が逆流するとビーズが開き、食べ物は通ります。通常時は閉じて逆流を防ぎます。
5年後に85%の人がPPIをやめられ、再手術の必要は2~3%と非常に低いです。ただし、MRI検査が受けられなくなるので、将来的にMRIが必要な人には向いていません。
経口的無切開胃袋形成術(TIF)
内視鏡で胃の上部を縫い合わせて弁を作る方法。体に傷をつけず、入院も1~2日で済みます。3年後の成功率は70~75%ですが、日本ではまだ導入している病院が限られています。
患者の声と実際の体験
オンラインのコミュニティでは、さまざまな体験が語られています。
- 「低脂肪食(1日20g以下)とベッドの頭を高くしただけで、薬なしで症状が消えた」(Redditユーザー)
- 「PPIを5年飲んでいたが、効かなくなった。LINX手術後、2年間全く症状がない」
- 「PPIで頭痛と下痢が頻繁に起きた。薬をやめた後、体重を減らして食事を見直したら、症状が改善した」
Amazonのレビューでは、オメプラゾールの1,243件のレビューのうち、28%が頭痛、19%が下痢、12%がビタミンB12不足を挙げています。LINXのTrustpilotレビューでは78%が満足していますが、22%が「大きな薬が飲みにくい」「ガスがたまる」などと報告しています。
今後の展望と注意点
GERDの治療市場は2023年で72億ドル(約1兆円)と大きく、PPIがその65%を占めています。しかし、長期使用のリスクが広く知られるようになり、手術やP-CABへのシフトが進んでいます。
2025年11月には、アメリカ消化器病学会が新しいガイドラインを発表する予定です。その中では、胃酸以外の原因(神経の過敏性など)にも注目し、個々の患者に合った「パーソナライズドな食事療法」が推奨される見込みです。
日本では、肥満率が今後10年でさらに上昇すると予測されています。つまり、GERDの患者も増えるでしょう。だからこそ、今から正しい知識を持ち、生活習慣を見直すことが、長期的な健康の鍵になります。
今すぐできること:3つのアクション
- 食事日記を14日間つける:何を食べたか、いつ食べたか、その後どう感じたかを記録。トリガーを見つける第一歩。
- 朝食の30分前にPPIを飲む:薬の効果を最大限に引き出すための鉄則。
- 寝る前の3時間は食べない:胃を空っぽにして、夜間の逆流を防ぐ。
薬に頼らずに、あるいは薬を減らすためにできることは、意外と多くあります。まずは、小さな習慣の変化から始めてみてください。
コメント
雅司 太田
6 1月 2026この記事、めっちゃ役立った!特にベッドの頭を高くする方法、自分も試してみたけど、枕じゃなくて足元に板置いたら本当に効いたよ。夜中に目覚めて咳き込むのが減った✨