フェオクロマocyトーマ:副腫腫瘍、高血圧、手術のすべて

突然、頭痛が走り、汗が噴き出し、心臓がドキドキする。血圧が240にもなる。でも、病院で検査をしても「ストレスかな?」と片付けられる。この症状、単なるパニック発作や高血圧とは違う可能性があります。それがフェオクロマocyトーマです。副腎にできるまれな腫瘍で、体に不要なアドレナリンを大量に分泌します。この病気は、治療すればほぼ治る--でも、見逃されると命に関わる病気です。

フェオクロマocyトーマとは何か

フェオクロマocyトーマは、副腎の中心部分にある「クローフィン細胞」から生まれる腫瘍です。副腎は腎臓の上にあり、ストレスに対応するホルモンをつくる器官です。この腫瘍が起きると、アドレナリンやノルアドレナリン(カテコールアミン)を異常に大量に分泌します。つまり、危険がなくても「戦うか逃げるか」モードがずっとオンになっている状態です。

この病気は1886年にドイツの病理学者ルートヴィッヒ・ピックによって初めて報告されました。日本では年間50~100例程度と非常にまれで、高血圧患者の0.1~0.6%にしか見られません。でも、その症状はとても特徴的です。頭痛、発汗、動悸--この3つがそろえば、フェオクロマocyトーマを疑う必要があります。

なぜ高血圧が起きるのか

フェオクロマocyトーマの最大の特徴は「発作性の高血圧」です。血圧が急に200以上に跳ね上がり、数分~数時間で元に戻る。このパターンは、一般的な高血圧とはまったく違います。普通の高血圧は、毎日ゆっくりと上がっているのが特徴です。でも、フェオクロマocyトーマの人は、朝は普通の血圧でも、急に階段を上ったり、緊張したり、尿を出そうとした瞬間に血圧が爆発的に上がります。

この発作は、副腎から過剰なカテコールアミンが放出されるからです。血管が急に収縮し、心臓が激しく拍動します。その結果、頭痛、動悸、冷や汗、顔の蒼白、吐き気、不安感が同時に起こります。中には「パニック障害」と誤診される人もいます。実際、患者の42%が最初に精神科で診断され、薬を飲んでいたという調査もあります。

診断はどのようにするのか

診断の鍵は「尿や血液のメタネフリン検査」です。これは、カテコールアミンが分解された物質を測る検査です。24時間尿のメタネフリン検査は、96~99%の確率でこの腫瘍を見逃しません。血液検査でも同様に精度が高く、97%の感度があります。

ただし、注意が必要です。カフェイン、タバコ、ストレス、一部の薬(抗うつ薬など)が偽陽性を起こすことがあります。検査前は、コーヒー、紅茶、チョコレート、アルコールを避ける必要があります。また、採血は冷やした状態で速やかに運ばないと、結果が歪みます。

血液検査で異常が見つかったら、次は画像検査です。CTやMRIで副腎の腫瘍を確認します。最近では、68Ga-DOTATATEというPET検査が使われ始めています。これなら、小さな腫瘍や副腎以外の場所(副腎外パラグランチーマ)にも反応します。

尿検査でメタネフリンを検出する医師と、副腎腫瘍のCT画像を示す医療イラスト。

遺伝性の可能性は高い

フェオクロマocyトーマの35~40%は、遺伝性です。SDHB、SDHD、VHL、RET、NF1といった遺伝子の変異が原因です。たとえ家族に同じ病気の人がいなくても、遺伝性の可能性はあります。2023年の最新ガイドラインでは、すべての患者に遺伝子検査を推奨しています。

特にSDHB遺伝子変異を持つ人は、腫瘍が悪性化しやすく、全身に転移するリスクが30~50%にもなります。そのため、治療後も毎年、全身のMRI検査が必要になります。遺伝性の場合は、兄弟や子どもにも検査を勧めるべきです。

治療は手術が基本

この病気の最大の特徴は、「手術で治せる」ことです。良性の腫瘍であれば、90%近くの患者が手術後に血圧が正常に戻り、薬をやめられます。これは、他の高血圧とは大きく違う点です。

しかし、手術は簡単ではありません。腫瘍がアドレナリンを大量に放出している状態で手術をすると、血圧が急激に上がり、心臓が止まるリスクがあります。そのため、必ず「事前準備」が必要です。

まず、α遮断薬(フェノキシベンザミン)を7~14日間服用します。これで血管を広げ、血圧を安定させます。同時に、塩分を多くとり、水分を2~3リットル飲んで、血液の量を増やします。副腎腫瘍の人は、慢性的に血管が収縮しているため、血液量が20~30%減っていることが多いからです。

手術は、ほとんどが腹腔鏡(ミニ手術)で行います。傷は数か所の小さな穴だけ。回復も早く、1~2日で退院できます。2週間以内に仕事に戻れる人も多いです。ただし、腫瘍が大きかったり、周囲の血管に巻きついていたりすると、開腹手術に変更になることもあります(5~8%)。

両側の腫瘍や悪性の場合は?

10%の患者は、両方の副腎に腫瘍があります。この場合、両方の副腎を摘出する必要があります。すると、体がホルモンをつくれなくなります。そのため、人生を通して、コルチゾール(ヒドロコルチゾン)とアルドステロン(フルドロコルチゾン)の薬を毎日飲まなければなりません。

悪性の場合は、転移が起こっている可能性があります。肺や肝臓、骨に広がることがあります。その場合、手術だけでは不十分です。最近では、177Lu-DOTATATEという放射性薬物療法(PRRT)が有効とされています。これは、腫瘍細胞にだけ放射線を届ける治療で、65%の患者で腫瘍が縮小したという報告もあります。

腹腔鏡手術で副腎腫瘍を摘出する様子と、回復に向かう患者と家族を描いたイラスト。

手術後の生活と注意点

手術後、ほとんどの人は血圧が急に下がります。これは、腫瘍がアドレナリンを出さなくなったからです。そのため、数日間は血圧が低くなりすぎることがあります。無理に動かないで、ゆっくり回復することが大切です。

また、6か月以上続く倦怠感を訴える人も12%います。これは、体が長い間過剰なストレスにさらされていたため、回復に時間がかかるからです。無理に運動をせず、十分な睡眠と栄養を取ることが回復のカギです。

遺伝性の場合は、定期的なフォローアップが命を守ります。毎年、血液検査と全身MRIを忘れずに行いましょう。特にSDHB遺伝子変異の人は、5年以内に転移するリスクが高いため、注意が必要です。

なぜ見逃されやすいのか

この病気の最大の問題は、「まれ」であることと、「症状が他の病気と似ている」ことです。一般の医師は、10年で1~2例しか出会わないかもしれません。そのため、診断の経験がありません。

「頭痛と動悸」=パニック障害、「高血圧」=生活習慣病--と、安易に診断されてしまうのです。平均して、症状が始まってから3.2年も経ってから正しく診断されます。その間に、心臓に負担がかかり、脳卒中や心不全のリスクが高まっています。

だからこそ、自分の症状に気づいて、自分から「フェオクロマocyトーマの検査をしたい」と言うことが重要です。特に、発作が繰り返される、血圧が急に上がる、家族に同じ病気の人がいる--そんな場合は、内分泌専門医に相談してください。

未来の治療と研究

今、フェオクロマocyトーマの治療は大きく変わっています。遺伝子検査が標準化され、早期発見が可能になっています。また、Belzutifanという新しい薬が、VHL遺伝子変異による腫瘍に有効であることが確認されました。これは、腫瘍の成長を抑える薬で、手術以外の選択肢として期待されています。

今後は、血液中から腫瘍の痕跡を検出する「リキッドバイオプシー」の開発が進んでいます。これなら、検査が痛みなく、頻繁にできるようになります。さらに、転移した腫瘍に対する新しい標的療法も、臨床試験中です。

フェオクロマocyトーマは、昔は「死の病」でした。でも今は、正しく診断されれば、ほぼ治る病気です。見逃されないことが、何よりも重要です。

フェオクロマocyトーマはがんですか?

90%は良性の腫瘍で、がんではありません。ただし、10%は悪性の可能性があり、他の臓器に転移することがあります。悪性かどうかは、手術後に病理検査で判断します。遺伝子検査(特にSDHB)でリスクを事前に把握することもできます。

血圧が高くなるのはなぜですか?

副腎腫瘍が、アドレナリンやノルアドレナリン(カテコールアミン)を過剰に分泌するからです。これらのホルモンは、血管を収縮させ、心臓の拍動を速くします。その結果、血圧が急激に上昇します。これは、ストレスや恐怖を感じたときの体の反応ですが、フェオクロマocyトーマでは、何も怖くなくても起こります。

手術は安全ですか?

事前準備をしっかりすれば、非常に安全です。経験豊富な病院では、合併症の率は1.2%以下です。ただし、事前にα遮断薬を服用せず、血圧をコントロールせずに手術すると、血圧が急上昇して命に関わる危険があります。必ず、専門医の指示に従って準備してください。

遺伝性の可能性があるなら、家族にも検査が必要ですか?

はい、必須です。遺伝性のフェオクロマocyトーマの場合は、家族の30~50%が同じ遺伝子変異を持っている可能性があります。特に子どもや兄弟には、10代から血液検査を勧めます。早期発見すれば、手術で完全に治すことができます。

手術後、薬はやめられますか?

片側の腫瘍を摘出した場合、90%以上の人が高血圧の薬をやめられます。血圧は数日~数週間で正常になります。ただし、両側の副腎を摘出した場合は、人生を通してホルモンの薬(ヒドロコルチゾン、フルドロコルチゾン)を飲み続ける必要があります。

再発のリスクはありますか?

良性の単一腫瘍なら、再発率は5%以下です。しかし、遺伝性の場合は、副腎以外にも腫瘍ができる可能性があります(副腎外パラグランチーマ)。そのため、毎年検査を続ける必要があります。悪性の場合は、転移のリスクが高いため、5年間は半年に1回の検査が推奨されます。

人気のタグ : フェオクロマocyトーマ 副腎腫瘍 高血圧 手術 カテコールアミン


コメントを書く