アスピリン誘発性呼吸器疾患:喘息とNSAIDs感受性の実態

アスピリン誘発性呼吸器疾患チェックツール

以下の3つの症状のうち、すべてに該当する場合は
アスピリン誘発性呼吸器疾患(AERD)の可能性が高くなります

※診断は医師の専門的判断が必要です

アスピリンやイブプロフェン、ナプロキセンなどのNSAIDsを飲んだあと、急に息苦しくなったり、鼻が詰まったり、目が赤くなる――そんな経験があるなら、それは単なる薬の副作用ではありません。これはアスピリン誘発性呼吸器疾患(AERD)という、特定の慢性疾患のサインかもしれません。

何が起きているのか:単なる薬のアレルギーではない

多くの人が誤解しているのは、アスピリンやNSAIDsがこの病気を「引き起こす」ことだと思っています。実際には、これらの薬は「トリガー」にすぎません。根本的な問題は、体の免疫系と炎症反応のバランスが大きく狂っていることです。

通常、体はアラキドン酸という脂肪を分解して、炎症を抑えるプロスタグランジンE2(PGE2)と、炎症を促すロイコトリエンをバランスよく作ります。AERDの患者では、このバランスが崩れて、ロイコトリエンE4が過剰に作られ、PGE2が不足します。その結果、鼻や気管支に大量の好酸球が集まり、慢性的な炎症が起き続けます。

この状態は、薬を飲まなくても常に進行しています。だからこそ、NSAIDsを避けるだけでは、鼻ポリープが再発したり、喘息が悪化したりするのを止められないのです。

「サンター三徴」――3つの症状が揃うと診断の手がかりに

AERDの特徴は、3つの症状が同時に現れることです。これを「サンター三徴」と呼びます。

  • 喘息:20歳以降に急に発症することが多く、従来の喘息より重症。咳、ゼイゼイ、胸の締め付け、息切れが頻繁に起こります。
  • 慢性副鼻腔炎と鼻ポリープ:鼻が常に詰まり、嗅覚が鈍くなる(嗅覚障害)のは90%以上の患者に見られます。鼻ポリープは大きくて多く、手術で取っても半年〜1年で再発するのが普通です。
  • NSAIDs感受性:アスピリン、イブプロフェン、ナプロキセンなどの薬を飲むと、30〜120分以内に鼻の詰まり、頭痛、目のかゆみ、喘息発作が起こります。

この3つが揃っていれば、AERDの可能性は非常に高いです。特に、成人になってから発症した喘息で、鼻ポリープがある人は、3人に1人がAERDだとされています。

意外なトリガー:アルコールも注意が必要

多くの人が知らないのが、アルコールとの関係です。AERDの患者の75%が、少量のアルコールでも反応を起こします。ワイン、ビール、焼酎――種類は関係ありません。1杯飲んだだけで、鼻が詰まったり、咳が出たりするのです。

これは、アルコールが体内で生成される化学物質が、ロイコトリエンの過剰分泌をさらに促進するためです。医師に「お酒は大丈夫ですか?」と聞かれたとき、「ちょっと飲んでも大丈夫」と答える人がいますが、それは危険です。軽い反応でも、長期的には気道の炎症を悪化させます。

アスピリン脱感作療法を受けた患者が、以前の苦しみから解放され、呼吸が楽になった様子を対比的に描いたイラスト。

なぜ診断されないのか?平均7〜10年も放置される病気

この病気の最大の問題は、診断が遅れることです。アメリカの研究では、患者が正しい診断を受けるまでに平均7〜10年かかっていると報告されています。

その理由は、医師の認知度が低いためです。多くの一般医や耳鼻咽喉科医は、NSAIDsの反応を「単なるアレルギー」と思い込み、鼻ポリープを「ただの慢性副鼻腔炎」として扱います。そして、何度も手術を繰り返すだけになります。

患者の声を聞いてみましょう。ある患者は、11年間、4人の耳鼻咽喉科医を渡り歩き、「Advil(イブプロフェン)を飲んだら喘息が悪化する」と言っていたのに、誰も「鼻ポリープとつなげて」くれなかったと語っています。

また、AERD患者の31%は、診断を恐れて検査を受けず、結果として不要な手術を繰り返しているというデータもあります。

治療の選択肢:薬を避けるだけではダメ

「NSAIDsを一切避ける」――これは当然の対応ですが、それだけでは病気の進行を止められません。鼻ポリープは再発し、喘息はコントロールが難しくなります。

従来の吸入薬(ステロイドや気管支拡張薬)は、AERD患者の35%しか有効ではありません。これは、他の喘息患者と比べて、はるかに低い成功率です。

では、何が有効なのか?

1. アスピリン脱感作療法:唯一の根本的治療

現在、AERDの最も効果的な治療は「アスピリン脱感作療法」です。これは、医師の監視のもと、少しずつアスピリンを投与して、体を薬に慣れさせる方法です。

この治療は、入院して2〜3日かけて行います。最初はごく少量から始め、徐々に増やしていき、最終的に1日650mgのアスピリンを2回、毎日飲み続ける必要があります。この治療を終えた患者の85%が、喘息のコントロールが改善し、鼻ポリープの再発が3年ごとから6ヶ月ごとへと大幅に遅れています。

成功率は92%と高く、手術の必要性も60%減らすことができます。ただし、脱感作中に約42%の患者が一時的な喘息発作や鼻詰まりを経験するため、専門施設での実施が必須です。

2. バイオロジック薬:新しい希望

近年、ダピルマブ(商品名:デュピクセント)というバイオロジック薬が、鼻ポリープの治療に使われるようになりました。これは、IL-4とIL-13という炎症を引き起こす物質をブロックする薬です。

AERD患者の50〜60%で、鼻ポリープのサイズが減り、嗅覚が戻ったというデータがあります。しかし、年間38,500ドル(約550万円)という高価格と、保険適用が38%にとどまっているのが現状です。

サンター三徴の3つの症状が三角形で結ばれ、診断の遅れを示す患者たちの声と専門施設の少なさを描いたイラスト。

医療の格差:診断まで3年も遅れる人々

この病気のもう一つの深刻な問題は、人種による診断の差です。

黒人やヒスパニック系の患者は、白人患者と比べて、診断が平均3.2年も遅れます。これは、医療へのアクセスの差、言語の壁、そして医師の偏見が原因と考えられています。

また、AERDの専門施設はアメリカでわずか35か所しかなく、一般のクリニックでは脱感作療法が提供されているのは12%にすぎません。多くの患者が、遠くの病院に通うために仕事を休んだり、交通費を負担したりしています。

どうすればいい?まずは3つのステップ

もし、あなたやあなたの家族が以下の症状に当てはまるなら、AERDを疑ってください:

  1. 20歳以降に喘息が発症した
  2. 鼻がずっと詰まっていて、嗅覚が弱い
  3. イブプロフェンやアスピリンを飲んだら、息苦しくなる

その場合、次の行動を取ってください:

  1. NSAIDsを避ける:アスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、ケトプロフェンなどは厳禁。パラセタモール(タイレノール)は安全です。
  2. 専門医を受診する:アレルギー・免疫学専門医か、AERDに詳しい耳鼻咽喉科医を探しましょう。日本では、大学病院のアレルギー科や呼吸器科に相談するのが最適です。
  3. 脱感作療法を検討する:もし条件が合えば、脱感作療法は人生を変える治療です。再発の頻度が減り、手術の回数も減ります。

この病気は、一度診断されれば、生活の質を大きく改善できます。診断が遅れるほど、手術や入院、経済的負担は増えていきます。あなたが「たまたま薬で具合が悪くなった」と思っているその症状は、もしかしたら、人生を変えるチャンスのサインかもしれません。

アスピリン誘発性呼吸器疾患は遺伝するのでしょうか?

いいえ、AERDは遺伝性の疾患ではありません。親がAERDでも、子どもがなる確率は一般の人と変わりません。この病気は、成人になってから何らかの環境要因や免疫の変化によって発症すると考えられています。特に、20〜50歳の間に急に症状が出ることが多いです。

市販の風邪薬や頭痛薬は安全ですか?

多くの市販薬にはイブプロフェンやナプロキセンが含まれています。パラセタモール(アセトアミノフェン)が入っている製品なら安全ですが、成分表を必ず確認してください。商品名が「鎮痛剤」「解熱鎮痛剤」と書かれている場合、NSAIDsが含まれている可能性が高いです。薬剤師に「AERDですが、この薬は大丈夫ですか?」と聞くのが最善です。

脱感作療法を受けるにはどうすればいいですか?

まず、アレルギー・免疫学専門医を受診し、AERDの診断を確定します。その後、脱感作療法を提供している施設に紹介してもらいます。日本では、主に大学病院のアレルギー科で実施されています。治療は入院が必要で、2〜3日間、医師の監視下で少しずつアスピリンを投与していきます。治療後は、毎日アスピリンを継続服用する必要があります。

アルコールを完全にやめなければいけませんか?

完全にやめる必要はありませんが、飲むと症状が出る人は、飲む量や頻度を極力減らすことが推奨されます。少量でも反応が出る場合、長期的には気道の炎症が悪化し、鼻ポリープの再発や喘息の重症化につながります。医師と相談して、安全な飲酒の目安を決めてください。

AERDの患者は、新型コロナウイルスにかかりやすいですか?

現在の研究では、AERDそのものが新型コロナウイルスへの感染リスクを高めるという直接的な証拠はありません。しかし、AERDの患者は慢性的な気道の炎症を抱えており、呼吸器系が弱っているため、感染した場合に重症化しやすい可能性はあります。ワクチン接種やマスク着用、手洗いなどの基本的な予防策は、特に重要です。

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コメント

Rina Manalu

Rina Manalu

1 2月 2026

この記事、本当に丁寧に書かれていて、救われました。私も2年前に鼻ポリープの手術を2回して、その後喘息が悪化して、ようやくアスピリンが原因だと気づきました。医師に「アレルギーかも?」って言ったら、笑われたんです。でも、この病気、ちゃんと理解してる人、本当に少ないですよね。
パラセタモールだけに頼ってます。薬局で「これ、NSAIDs入ってますか?」って聞くのが、今や習慣になりました。😊

Kensuke Saito

Kensuke Saito

3 2月 2026

アスピリン誘発性呼吸器疾患って正式名称だよね?英語だとAERDって略すけど、日本語で書くなら『アスピリン誘発性気道疾患』の方が正確。『呼吸器』って言葉は広すぎる。肺だけじゃないんだから。医療用語に曖昧さは許されない。

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