クルーズ旅行で心配なことの一つが、万が一病気や体調不良になったときに薬を手に入れられることです。船の医療センターは、陸上の病院のように豊富な薬を揃えているわけではありません。むしろ、緊急対応と軽症の治療に特化した「診療所」に近い存在です。たとえば、風邪、胃腸炎、船酔い、軽い怪我などは対応できますが、持病の薬や特殊な処方薬が必要な場合は、事前の準備が生死を分けるほど重要になります。
船上の医療センターはどんな場所?
大型クルーズ船の医療センターには、数床のベッドと、医師1人、看護師1〜2人が常駐しています。船の乗客が何千人いるとしても、この人数で対応しなければならないため、薬の在庫も限られています。世界保健機関(WHO)の報告によると、船上で最もよく見られる病気は、インフルエンザ、ノロウイルス、船酔い、軽度の外傷です。これらの対応は比較的スムーズですが、糖尿病のインスリン、高血圧の薬、抗生剤、精神疾患の薬など、特定の薬が必要な場合は、船上で手に入らない可能性が非常に高いです。
医療センターの薬の在庫は、船の大きさや航行ルート、乗客の年齢層によって異なります。たとえば、ロイヤル・カリビアンやディズニー・クルーズラインのような大手会社は、胃腸薬、抗ヒスタミン薬、鎮痛剤、一部の抗生物質を常備しています。しかし、それ以外の薬は、基本的に「持参すること」が前提です。2023年のガイドラインでは、100人以上の乗客がいる船は、心臓発作や重篤な感染症に対応するための最低限の薬を必ず積載しなければならないと定められていますが、それ以上の薬は「余裕があれば」程度です。
薬を手に入れるには? 3つのルール
船上で薬を手に入れるには、次の3つのルールを守るだけで、9割以上のトラブルを避けられます。
- すべての薬を、オリジナルの容器に入れて持参する:薬の瓶やパッケージに名前が書いてあることが絶対条件です。名前が書いていない薬は、保安要員に没収される可能性があります。特に国際線では、パスポートの名前と薬の名前が一致している必要があります。
- 旅行期間より3〜5日分多く持っていく:天候や港の混雑で航行が遅れることがよくあります。2023年のクルーズ客の調査では、14日間のクルーズで薬が足りなくなった人の87%が、予定通りの日数しか持っていなかったと報告されています。薬は、旅行日数+1週間分を必ず持参しましょう。
- 薬はキャリーケースに入れる:荷物が紛失した場合、手荷物には絶対に薬を入れてください。チェックイン済みの荷物に薬を入れていて、荷物が遅れたら、薬も遅れます。その場合、船上で対応できる薬はごく限られています。
薬の値段は高い? 実際の価格比較
船上の薬は、陸上の薬局よりずっと高いです。たとえば、アメリカの薬局で15ドルで買える抗生物質が、船上では25〜40ドルになることがあります。これは、輸送コスト、在庫管理、限られた供給量によるものです。クルーズ客の間では、「船上で薬を買うのは、最後の手段」という声が多数です。
特に問題になるのが、向精神薬や麻薬系の鎮痛剤です。これらの薬は、船上では極めて限られた量しか保管されていません。ディズニー・クルーズラインでは、処方薬の瓶にラベルが貼られていないと受け取れないという厳しいルールがあります。Storylinesのような長期居住型クルーズ船でも、これらの薬は「緊急時や極めて深刻な場合のみ」に限られています。
一方で、船酔いの薬は例外です。多くのクルーズ会社が、無料で24時間提供しています。これは、船酔いが最も頻繁に起こる症状だからです。乗客の78%が、「船上で手に入った薬は、船酔いの薬だけだった」と語っています。
持病がある人、特別な機器を使う人へ
糖尿病の患者さんは、インスリンを必ず持参してください。インスリンは、船上では一切在庫されていません。医師の診断書をコピーして持つと、緊急時にスムーズに処置してもらえます。また、インスリンは冷蔵が必要ですが、船上の冷蔵庫は患者専用のものではありません。そのため、小型のクーラーボックスとアイスパックを用意するのがベストです。
CPAPマシンを使っている人は、蒸留水と延長コードも忘れずに。Storylinesのような長期型クルーズでは、事前にこれらの必要な物品を申告するシステムがありますが、他のクルーズでは一切サポートされません。マシンが故障しても、船上では修理できません。
高血圧や心臓病、てんかんなどの慢性疾患を持つ人も同様です。薬の種類が多ければ多いほど、船上で対応できる可能性は低くなります。必ず、薬の名前、用量、服用時間、処方医の連絡先を紙に書き出して、パスポートと一緒に入れておきましょう。
予防策:事前準備がすべて
クルーズ船の医療センターは、あなたの「救急車」ではありません。あくまで「緊急時の応急処置所」です。だからこそ、事前の準備が唯一の安心材料になります。
- 薬のリストを作成:薬の名前、用量、1日何回飲むか、処方医の名前をリストにまとめる
- 薬のコピーを2つ作る:1つは手荷物に、もう1つは別の荷物か電子データで保存
- 薬の有効期限を確認:クルーズの終了日より前に切れる薬は、事前に新しく手に入れておく
- 長期クルーズ(14日以上)は、90日分を用意:港が閉まっている日が続く可能性があるため
- 薬を「1日分ずつ」小分けにして、旅行用ケースに入れる:飲み忘れを防ぐだけでなく、保安検査でも安心
特に、海外の港に立ち寄るクルーズでは、現地の薬局が休業している日が多いです。2023年の統計では、港の薬局が閉まっていたために薬を手に入れられなかった事例が、全体の23%を占めていました。そのため、港に着く前に薬を補充するという発想は、現実的ではありません。
クルーズ会社の違い:ロイヤル・カリビアン vs Storylines
すべてのクルーズ会社が同じように薬を扱うわけではありません。
ロイヤル・カリビアンやノルウェージャン・クルーズラインのような一般的な会社は、基本的な薬の在庫(胃薬、解熱剤、抗生物質など)しか用意していません。薬の種類は50〜100種類程度で、それ以上は期待できません。
一方、Storylinesのような「居住型クルーズ」は、まるで陸上の薬局のように薬を揃えています。彼らは、6〜12ヶ月前に処方薬を事前提出するシステムを導入しています。糖尿病の薬、甲状腺の薬、精神疾患の薬など、特殊な薬も、事前に申請すれば船上で手に入れられます。ただし、これは「居住型」にしか適用されません。通常の1週間クルーズでは、このサービスは利用できません。
つまり、普通のクルーズでは、「自分の薬をちゃんと持参する」しか選択肢はありません。会社の違いで安心できるわけではありません。
よくある質問
船上で薬を買うのは安全ですか?
はい、安全です。船上の薬は医師が処方し、国際基準に従って管理されています。ただし、陸上の薬局と比べて価格が高くなるため、できるだけ自分の薬を事前に持参することを推奨します。
処方薬の名前がパスポートと違う場合、どうすればいいですか?
パスポートの名前と薬の名前が一致していないと、保安要員に没収される可能性があります。薬の名前が旧姓や別名になっている場合は、医師に「別名での処方」を確認するための診断書を書いてもらうか、薬を再処方してもらい、パスポートの名前に合わせてください。
処方薬を液体で持参してもいいですか?
はい、液体の薬も持ち込めます。ただし、100ml以下の容器に分けて、透明なプラスチック袋に入れてください。陸上の空港と同じルールです。液体の薬は、必ずオリジナルの容器に入れて、ラベルが見えるようにしましょう。
薬を忘れた場合、港で買うことはできますか?
港の薬局は、観光客向けに開いているとは限りません。特に、小さな港や天候不良で船が長く停泊する場合、薬局は閉まっていることがよくあります。そのため、港で薬を買うというプランは非常にリスクが高いです。必ず、船上で対応できるように事前準備をしてください。
クルーズ中に新しい薬が必要になったらどうすればいいですか?
船上の医師は、軽症の治療や緊急対応はできますが、新しい処方薬を出すことはほとんどありません。特に、持病とは関係のない薬(たとえば、風邪薬や頭痛薬)は、船上の在庫で対応できます。しかし、新しい病気や症状に対して処方薬を出すことは、原則として行いません。予防がすべてです。
次のステップ:クルーズ前にすべきチェックリスト
- すべての薬をオリジナルの容器に入れて、名前と用量を確認
- 旅行日数+7日分の薬を準備
- 薬を手荷物に、必ず入れる
- 薬のリストを紙に書き、パスポートと一緒に入れる
- 糖尿病やCPAPなどの特殊な機器を使う人は、必要な補助品(蒸留水、延長コードなど)を事前確認
- 処方薬の有効期限をチェックし、切れる前に交換
- クルーズ会社の医療サービスについて公式サイトで確認(特に薬の在庫について)
クルーズは、楽しい旅行です。しかし、薬の準備が不十分だと、その楽しさは一瞬で消えてしまいます。陸上の病院のように薬が手に入ると思ってはいけません。あなたが安心して旅を楽しむための、唯一の方法は、自分自身で準備することです。
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